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東京地方裁判所 平成9年(ワ)14677号 判決

原告 石田規雄

同 青木八重子

同 梅原弘

同 草間正廣

同 安藤武彦

同 堀井茂

同 堀井圭子

同 川崎望

同 川崎夏江

同 栗山憲司

右一〇名訴訟代理人弁護士 宇都宮正治

被告 株式会社穴吹工務店

右代表者代表取締役 穴吹英隆

右訴訟代理人弁護士 畑中耕造

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

1  被告は、原告石田規雄、同青木八重子、同梅原弘、同草間正廣、同安藤武彦及び同栗山憲司に対し、各一〇〇〇万円及びこれに対する平成九年七月二九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告堀井茂及び同堀井圭子に対し各七七〇万円、原告川崎望に対し八五八万円、原告川崎夏江に対し六八二万円及び右各金員に対する平成九年七月二九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告から原告ら住所地所在の一四階建て高層マンション「サーパス戸田公園」(以下「本件マンション」という)の区分所有建物の分譲を受けた原告らが被告に対し、本件マンションには、強風のためベランダが使用できない、窓のサッシから隙間風が浸入して風切り音がうるさい等の現象が生じる瑕疵があり、これにより被害を受けたとして、瑕疵担保責任又は債務不履行に基づく損害賠償として一戸当たり四〇〇万円、不法行為に基づく精神的損害の慰謝料として原告一人につき五〇〇万円及び原告各自の弁護士費用相当額を請求するという事案である。

一  前提となる事実(証拠によるものは適宜関係証拠を掲記する)

1  当事者

(一) 被告は、土木建築工事の請負、設計、施工及び監理並びに不動産の売買等を目的とする株式会社である。

(二) 原告石田規雄は平成五年一〇月三日七一八〇万円で本件マンションの一四〇一号室(以下単に番号のみで表示する)を、原告青木八重子は同月一三日七一一〇万円で一三〇一号室を、原告梅原弘は同年三月二〇日六九七〇万円で一二〇二号室を、原告草間正廣は平成四年九月二八日六六三〇万円で七〇一号室を、原告安藤武彦は同年七月三〇日七四七〇万円で一四〇二号室を、原告堀井茂及び同堀井圭子は同年三月三〇日八一九〇万円で各持分二分の一の割合で一一〇四号室を、原告川崎望及び同川崎夏江は、同年一一月二九日七二八〇万円で原告川崎望が持分一〇分の七、同川崎夏江が持分一〇分の三の割合で一一〇二号室を、原告栗山憲司は同月八日六七三〇万円で八〇一号室を、それぞれ被告からその東京支店扱いで購入し、現在それぞれ、右各区分所有建物(以下便宜「住居」という)に居住している(以下各原告の特定は姓のみで表示する)。

2  本件マンションの構造等

(一) 本件マンションは、被告の設計及び施工により、埼玉県戸田市氷川町二丁目四四〇五番地一所在の宅地(四四二七・七八平方メートル)を敷地として建築された鉄骨鉄筋コンクリート造(一部鉄筋コンクリート造)一四階建ての建物(建築延床面積一万〇三〇〇・六三平方メートル)であり、平成三年一二月末に完成した(弁論の全趣旨)。

(二) 原告らの各住居は、その戸室番号の上二桁ないしは一桁の数字が示す階にあり、原告石田、同青木、同栗山及び同草間の各住居はAタイプ(北側に一箇所、西側に三箇所のバルコニーがある)、原告安藤、同梅原及び同川崎の各住居はBタイプ(西側に一箇所のバルコニーがある)、原告堀井の住居はDタイプ(北側に二箇所、南西側に二箇所のバルコニーがある)である(乙一)。

(三) 本件マンションの敷地面から原告ら各自の所有する住居のべランダ面までの高さは、一四階にある原告石田及び同安藤の住居については三九・〇四メートル、一三階にある原告青木の住居については三六・〇八メートル、一二階にある原告梅原の住居については三三・一二メートル、一一階にある原告川崎及び同堀井の住居については三〇・一六メートル、八階にある原告栗山の住居については二一・二一メートル、七階にある原告草間の住居については一八・一八メートルである。

3  本件マンションの住民と被告との交渉

本件マンションの管理組合理事会は、本件マンションでの風害を訴える住民が複数いたことから、平成七年一月ころには本件マンションの住民に対し風害の有無等についてアンケート調査を実施・集計し、その後には被告との交渉に当たるなどしていたところ、同年一二月ころまでに、被告から二重サッシを設置する工事費用の半額を負担するとの提案があり、これに応じる意思を有する世帯もあったため、この問題については各戸の意思を優先すべきであるとの方針を採ることにした。

その結果、およそ一七世帯が右工事費折半の条件で被告と合意して工事を施工したが、右のような解決を不当とする原告らは本訴を提起するに至った。

二  原告らの主張

1  本件マンションの瑕疵1

本件マンションにおいて使用されているサッシは被告の基本設計図と異なり、気密性が八立方メートル/時・平方メートル、水密性が三五キログラムf/平方メートルの性能を有するセミエアタイトではなくこれより性能が低いレギュラーであり、この点において本件マンションには瑕疵がある。

2  本件マンションの瑕疵2

(一) 本件売買の対象物である住居については、その有すべき快適な住環境や、住み心地の良さも取引界において通常要求される品質、性能に含まれるのであり、これを欠く場合には当該物件には瑕疵があるというべきである。

(二) 平成一〇年一二月二四日から平成一一年三月六日までの間、本件マシンョンに強風が吹き付けた日であっても埼玉県南部地方の天気予報が強風であった日は三分の一にすぎず、逆に埼玉県南部地方の天気予報が風なしであったのに本件マンションに強風が吹き付けた日は五分の一ある。また、同年三月二二日から同年四月一五日までの間、本件マンションで強風が吹いた日で埼玉県南部地方の天気予報も強風であった日は五分の一にすぎず、埼玉県南部地方の天気予報が風なしと予想されたにもかかわらず本件マンションに強風が吹き付けた日は五分の三ある。

瑕疵の有無の基準となるべき取引界において要求される快適な住環境の中には風の影響によって日常生活が脅かされないことも含まれるのであり、本件マンションの居住者が右のような強風が多い環境の中で快適に生活することができない場合、当該マンションには瑕疵があるということができる。

(三) そして、原告らは以下のような風害を被っている。

(1) 風が強くバルコニーを利用できない。…原告ら全員

(2) 風切り音がうるさく、室内での会話、テレビの音声が聞き取りづらいし、安眠もできない。…原告石田、同梅原、同草間、同安藤、同堀井、同川崎及び同栗山

(3) 暖房をしても、室内がなかなか暖まらない。…原告石田、同青木、同梅原及び同栗山

(4) ドアが風により自然に開いたり、風圧で開けにくくなる等ドアの開閉に支障がある。…原告梅原、同草間、同堀井及び同川崎

(5) 戸外からの騒音がうるさい。…原告安藤

(四) したがって、本件マンションは取引上通常要求される品質、性能を欠くのであるから、本件マンションには瑕疵がある。

3  本件マンションの瑕疵3

(一) 本件マンションは高級マンションとして被告により売り出され、そのパンフレット及びビデオには、次の内容が盛り込まれていた。

(1) 本件マンションは「高層の邸宅」であり、まさに「邸宅」と呼ぶにふさわしいクオリティを追求した永住志向の住居であり、高層階は光と風があふれる一四階建ての特等席である。

(2) すべての居室がバルコニーに面しており、ダウンライトを設けたバルコニーもある。また、リビングダイニング角のバルコニーは広さも十分、まさに第二のリビングとして活用できる。

(3) 和室前のバルコニーがしゃれた日本庭園風に作られている。

(二) また、被告の販売員は原告らに対し、本件マンションには資材、付帯設備についてもコストを度外視した最高レベルのものが使用されている。和室前のバルコニーには外灯もあり、ガーデンセットを置いて夏は花火を観ながらビールを飲んだり、バーベキューパーティを開いたり、あるいは来客の折りなどに夜景を眺めながら楽しいひとときを過ごせるし、また小さな箱庭にしてもいいので、多目的に使用できる空間であるなどと言って、高層であっても通常人が快適な生活を送ることができるベランダ付きマンションを提供するとの宣伝文句を使い、本件マンションの購入を勧めていた。

(三) このような被告の販売行為は見本売買あるいは広告による品質、性能の保証というべきである。そして、本件マンションには前記2のとおりその保証するような機能がない以上、本件マンションに瑕疵があることになる。

4  不法行為

本件マンションには、右1ないし3のような瑕疵があり、被告は、本件マンションにこのような瑕疵があることを知りながら、または当然知り得べきであったのに、漫然と誇大な広告と宣伝文言によって、原告らに本件マンションを購入させた。

5  損害及び損害額

(一) 本件マンションに瑕疵があることによる債務不履行又は瑕疵担保責任に基づく損害額は、一住居当たり四〇〇万円を下らず、各原告については左記のとおりとなる。

(1) 原告堀井茂、同堀井圭子各二〇〇万円

(2) 原告川崎望 二八〇万円

(3) 原告川崎夏江 一二〇万円

(4) その余の原告ら 各四〇〇万円

(二) 原告らは2(三)の欠陥により精神的苦痛を受けており、これを慰謝すべき金額は各原告について五〇〇万円を下らない。

(三) 原告らの弁護士費用は、左記金額を下らない。

(1) 原告堀井茂、同堀井圭子、 各七〇万円

(2) 原告川崎望 七八万円

(3) 原告川崎夏江 六二万円

(4) その余の原告ら 各一〇〇万円

三  被告の主張

1  セミエアタイトというサッシの呼称は、被告が独自に使用しているものにすぎず、本件マンションに設置されているサッシは基本設計図どおり建設省の定める基準に適合したものである。

2(一)  風が吹くことは自然現象であるから、現実には予報と異なる風が吹くこともあるし、本件のような高層マンションの一定区域において、いわゆる「ビル風」が吹くことは一般に多く見られる現象である。

したがって、予報と異なり強い風が吹いたことをもって本件マンションの性能に瑕疵があるとすることには論理の飛躍がある。

(二)  住居外にあるバルコニーに風が当たることは、自然現象であり、冬の北風が吹く日にバルコニーを使用しないことは誰もがする通常の対処であるから、強風のためバルコニーを使用することができないことは、本件マンションの性能とは無関係のことである。

サッシには、その開閉を円滑にするための隙間があり、風が強く吹くときにすきま風が吹き込んだり、風切り音が生じたりすることはやむを得ないことであるから、すきま風や風切り音の発生があることをもって本件マンションの瑕疵とすることはできない。

原告栗山の部屋の室温が、夜から朝にかけて低下することは、厳寒期に北側に面した雨戸のないガラスサッシ戸の暖房を止めた状態においては通常起こり得ることであり、サッシ戸の瑕疵ということはできない。

3(一)  被告は、本件マンションを、余裕のある空間設計、行き届いた設備・仕様を配慮した「ゆとりの新発想邸宅」として売り出したものであり、「高級マンション」と称したことはない。また、原告が指摘するパンフレットの宣伝文句は、本件マンションのうちの一三階及び一四階の住居のうち、一番最後に売れた三住居を販売するに際して作成されたパンフレットに記載されていたものである。

(二)  原告ら主張3(二)及び(三)の各事実は否認する。

第三当裁判所の判断

一  本件マンションの瑕疵1の主張について

原告は、本件マンションに使用されているサッシがセミエアタイトではなくレギュラーであるから瑕疵があると主張するので、この点について検討する。

証拠(乙四、七、証人佐藤)によれば、本件マンションの設計図書(建具表)において使用を予定されていたサッシは気密性が八立方メートル/時・平方メートル以下の性能を有するものであること、本件マンションには右設計図書に記載された性能を有するサッシが現実に設置されたこと、右サッシは日本工業規格(JIS)に定められた耐風圧性、水密性の基準のほか、気密性の基準に達する性能を有する製品であること、被告社内においてはこのような性能を有するサッシをセミエアタイトと呼んでいたが、一般には右のようなサッシはレギュラーエアタイトと言われていること等の事実が認められる。

右の事実によれば、本件マンションに設置されたサッシがセミエアタイトあるいはレギュラーという呼称のものであったか否かという点はその性能にかかわる本質的な問題とは認められないのであり、むしろ、前記のとおり、本件マンションには設計図書どおりの性能を有する製品が取り付けられ、かつ右製品は日本工業規格(JIS)の基準に達していると認めることができるのであるから、この点に原告が主張するような瑕疵があるということはできない。

二  本件マンションの瑕疵2の主張について

1  原告らは、快適な住環境や住み心地の良さも取引上通常に要求される品質、性能に含まれるところ、本件マンションにおいては風によって快適な住環境が脅かされているから、本件マンションには瑕疵があると主張する。しかし、その内容は、前記のとおりサッシにかかわる点を除くと、本件マンションの構造又は設備について具体的な欠陥個所がある旨の指摘をするのではなく、総体的に快適な住環境が損なわれていることが本件マンションの瑕疵であると主張し、その根拠として、原告らの各住居において生じている風による被害の現象を指摘しているものである。

ところで、一年を通じてみるとき、強弱様々な風が吹くことは通常見られる自然現象であって、そのような風が建物に吹き付けること自体が建物の瑕疵に当たらないことは自明のことである。さらに、一般に建物のサッシ等の建具を設置するに当たっては、人の居住空間と外部とを遮断する構造物としてみるとき、その保有すべき機能面をも考慮すれば、後記のとおり完全な密閉性を確保することが望ましいとばかりはいえないのであるから、仮に一定の範囲で風が建物内に入ってくるとしても、そのことをもって直ちに瑕疵又は欠陥があるといえるものではないのであり、その点において住居に雨漏りがする(そのことによって欠陥があるといい得る)ような場合と同視することはできないものというべきである。更に、本件マンションに用いられたサッシが日本工業規格の基準を満たしている製品であることも前示のとおりである。そこで、風の点以外に本件マンションの構造又は設備について具体的な欠陥箇所があることの指摘がされていない本件においては、原告らのいう風の影響の内容、程度を検討し、本件マンションの立地条件や地域の特殊性、売買代金の額などをも考慮した上、本件マンションが取引上又は社会通念上要求される住居としての品質、性能を欠いているものと認めるに足りるものかについて判断する。

2  原告らは、本件マンションの所在地の特性として、強風がしばしば吹くと主張する。

(一) 証拠(甲一五、二〇)によれば、原告栗山は、平成一〇年一二月から平成一一年五月まで本件マンションの同原告宅バルコニーにおいて風力を測定したこと、原告栗山による右風力測定の結果と埼玉県南部地方の風についての予報との関係については、別表一及び二のとおりであること(なお、別表二は、平成一一年三月一六日から同年五月五日までの間に秒速六・〇メートル以上の風力が測定された日のみを摘示している)等の事実が認められる。

(二) 別表一によると、予報において風についての記載がないにもかかわらず、本件マンションにおいて風力が秒速六・〇メートル以上を測定した日は、平成一一年一月一二日、同月一三日、同月一六日、二月二日、同月五日、同月一八日及び同月二七日の合計七日であって、全観測日中の約一割である。他方、予報が「やや強」又は「強」であるにもかかわらず、本件マンションにおける風力が秒速六・〇メートル未満にとどまった日は、平成一〇年一二月二六日、平成一一年一月一〇日、同月一七日、同月二六日、同月二八日、同月二九日、同年二月七日、同月一四日、同月二一日、同年三月九日及び同月八日の合計一一日であって、全観測日中の約一割五分である。

右事実からすると、本件マンションで計測された風力が予報より強い日数も弱い日数もほぼ同程度ある上に、別表一及び二の「本件マンションの風力」は、本件マンションの原告栗山宅において観測された一時的な風力を表すものであって、常に別表に示す程度の風が吹いたことを表すものではなく、また「埼玉県南部の予報」は埼玉県南部地方の風力についての予報にすぎず現実の風力と異なることも少なくないのであって、これらを比較して正確な差異を評価することは困難であることも併せ考慮すると、本件マンションで埼玉県南部地方において突出した強風が吹くことが多いとまでは認めることができない。

また、別表一及び二によれば、風力が秒速八メートルを超える日が、平成一一年一月七日、同月九日、同月一一日、同月一六日、同月二一日、同年二月二日、同月一〇日、同月一二日、同月一三日、同月一八日、同月二七日、同年三月六日、同月二二日、同月二九日、同年四月二日、同月七日、同月八日、同月一四日、同月一五日、同月二四日及び同年五月三日の合計二一日あり、全観測日一二三日中の約二割に及んでいるが、この観測は平成一〇年一二月二四日から翌年の五月六日までという冬期から春先にかけて行われたものであり、本件マンションの所在する関東地方では一般的に冬期や春先は風力が強いことは経験則に照らし明らかであるし、本件マンションのような高層の建物においては、いわゆる「ビル風」が吹くことも容易に予想されるのであるから、右観測結果を根拠にして、本件マンションに受忍限度を超える異常に強い風が吹き付けていたということもできない。

(三) 右のように本件マンションに吹き付ける風は近隣地域と比較して異常に強いものであるとまでは認めることができないのであり、この地域にマンションを建築し又はこれを販売する者に、そのマンションについて前記観測値程度の風の影響を受けないような構造又は設備を施すべき義務を強いる特段の事情があるものと認めることはできない。

3  次に、原告らは、本件マンションでの生活上、風の影響のため各種の不都合が生じているとするので、このような現象面からみて本件マンションに瑕疵があるといえるかについて検討する。

(一) バルコニーの利用及びドアの開閉等についての支障

風が強い日にはバルコニーの利用が制限されたり、サッシの開閉に支障が生じたりすることは当然のことであり、前記のとおり、本件マンションの所在地域では強い風が吹く日が格別に多いとか異常に強い風が吹くとかいう事実は認められないこと、原告らの主張によっても風の影響があるとするのは冬期から春先にかけてであり、本件マンションならずとも右季節にベランダの快適な使用ができないという論旨自体がむしろ不自然な主張であること、風力が地表面近くよりも建物の上層階に上がる方が強くなることは通常人であればこれを知り又は知り得べきであることに照らして考えれば、原告らが主張する右のような不都合が本件マンションの瑕疵又は欠陥に当たるものということはできない。

(二) 風切り音及び室温の低下

証拠(乙四、五、証人佐藤正己)によれば、本件マンションには日本工業規格(JIS)に定められた気密性を有するサッシが使用されていること、及び、完全に外気を遮断するような完全な密閉性を有するサッシを使用した場合、建築工学上ドアに強度の荷重がかかり、ドアの開閉が困難になることが認められる。

右事実によれば、ドアの開閉が困難になるという日常生活上の不都合を避けるためにはサッシに完全な密閉性を求めることはできず、サッシからある程度の外気が流入することは受容せざるを得ないのであり、このように、サッシ戸の隙間からの外気の流入を完全に遮断しないで放置しておくことについて、相応の合理的理由が認められるのであるから、右外気の流入現象のあることは原則として原告らの受忍すべき事柄であり、その程度が格別に受忍限度の範囲を超えるものであることが明らかにされない限り、右現象をもって瑕疵があるものと評価することはできない。

そこで、原告ら主張の風ないし外気流入の現象が格別に受忍限度の範囲を超えるものであるかについて検討を進める。

(1) 風切り音について

証拠(甲一六の3、二一)によれば、原告らが、特に風が強く風切り音がひどいと認識して記録に留めたのは平成一〇年一二月二四日から平成一一年四月一五日の間に、平成一〇年一二月二四日、平成一一年一月九日、同月一一日、同月一六日、同月二一日、同月三〇日、同年二月二日、同月三日、同月六日、同月八日、同月一三日、同月一八日、同月二五日、同月二七日、同年三月六日、同月二二日、同月二九日、同年四月二日、同月七日及び同月一五日の二〇日であることが認められ、これは全体の二割弱であるにすぎないのであり、本件マンションのような高層建築物においては通常生じ得る程度を超えるものとはいい難いというべきである。

そして、風切り音の程度に関する検証の結果によっても、原告らが、特に風が強く風切り音がひどいと認識してビデオテープに撮影したすきま風、風切り音が受忍限度を超えるものであるとまでは認めるには足りず、他にすきま風、風切り音の程度が受忍限度を超えるものであることを認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件マンションの原告ら宅における風切り音が格別に受忍限度の範囲を超えるものであると認めることはできない。

(2) 室温の低下について

証拠(甲一〇、四九)及び弁論の全趣旨によれば、原告栗山宅(Aタイプ)北西側和室の翌日の午前七時ころの室温は、平成八年一二月二〇日から平成九年二月二八日までの間、室内の暖房を停止した状態では当日の午後一〇時ころの室温から平均して約四・九度低下していること及び、翌日の午前七時の外気の温度は平均すると約二・七度であるが、室温は常に一三度以上で、かつ、平均すると一六度以上であることが認められる。

右事実によれば、冬期に北西側に面した雨戸のない和室において室内の暖房を停止した状態で夜間にかけて室温が約四・九度低下することは、ごく通常の事象であるし、外気の温度と比較すると平均して一〇度以上室内のほうが高い温度を保っていることからすると、仮に本件マンションのサッシ戸から外気が流入し、室温を低下させていたとしても、これが受忍限度の範囲を超えるものであるとは到底認められない。

(三) その他の現象について

右(二)(1)及び(2)のほか、原告安藤は、戸外からの騒音がうるさいと主張しているが、これは通常生活騒音と推認されるのであり、それが本件マンションのサッシの瑕疵に起因するものであるとか、受忍限度の範囲を超える程度のものであると認めるに足りる証拠はない。

(四) 以上によれば、原告ら主張に係る本件マンションでの生活上の不都合は、これらが生じていることをもって、本件マンションに瑕疵があるということはできない。

三  本件マンションの瑕疵3の主張について

原告らは、本件マンションを高級マンションとして売り出し、パンフレットやビデオにはそのような内容が盛り込まれ、また、被告の販売員は通常人が快適な生活を送ることができるベランダ付きマンションを提供するとの宣伝文句を用いて本件マンションの購入を原告らに勧めたものであって、このような被告の行為は、見本売買又は広告による品質、性能の保証というべきであると主張する。

しかし、被告がその販売宣伝用のパンフレットやビデオにより、又は販売員の宣伝文句により本件マンションが風の影響を受けることのない住環境を保証したものと認めるに足りる証拠はなく、かえって、前記のとおり、風力が建物の上層階に至るに従って強くなることは通常人であればこれを知り得べき事柄であることをも併せ考慮すれば、被告が原告らに対し本件マンションを販売するに当たり、本件マンションの構造又は設備について通常の品質、性能を超える程度のものを保証したものということはできない。

四  以上のとおりであり、本件マンションには原告らが主張するような瑕疵があるということはできず、原告らの被告に対する瑕疵担保責任又は債務不履行責任に基づく請求はいずれも理由がない。また、瑕疵と評価すべき不具合が本件マンションにあったということはできないのであり、被告が本件マンションの各住居の販売について不法行為責任を負うべき違法性は認められないから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの被告に対する不法行為責任に基づく請求も理由がない。

なお、前記認定によれば、原告らの各住居において、損害賠償の対象となるような瑕疵とまでは認められないものの、居住環境として改善されることが望ましい点のあることが指摘できるが、この点については、前記のとおり被告から費用折半による改善のための工事の申し出がされており(これに応じている他の区分所有者が相当数いる)、この点からも被告に本件マンションの建築販売業者として非難されるべき事由は乏しいものというべきである。

五  よって、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤村啓 裁判官 高橋譲 裁判官 本山賢太郎)

別表<省略>

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